命学館コラム　無明の酒

◆「無明の酒」

　無明とは仏教用語の一つで、煩悩の惑いに本性を蔽われ妄執を起こして事理をわきまえぬことを言い、無明の酒とは心智を晦ます酒のことを言います。

　現代は、多くの「無明の酒」が用意されており、ごく自然にしかもそっと身の回りに置かれていますので、多くの人達はこの酒を飲んで理性を失っており、その害毒は本人のみならず子供にまで及んでいます。以下何種類かの無明の酒をご紹介しましょう。

◆名酒その１「ゆとり」

　企画販売元は文部省（現在の文部科学省）の寺脇研という一人の小役人でした。この酒を飲むと子供の教育という思考回路が麻痺し、子供の将来や学力維持ということにまったく無頓着になります。近く販売中止となるようですが、約１０年間販売されたこの酒によって齎された害毒は小学生から大学生、はたまた親にまでに及びました。この安酒は小学生や中学生など少年にも飲まされたため、基礎学力の低下のみならず思考能力低下、暇を見つけては遊ぶことばかり考えるようになりました。ところが国際的な学力比較でも凋落の一途をたどっていることから見直しが図られ、加えて上記の小役人も退官したことから終に販売が中止されることとなりました。

　このゆとり酒がつくられる元となった所謂「詰込み教育、管理教育、受験戦争によって発生したとされる校内暴力、いじめ、落ちこぼれ」などが、ゆとりのない学習環境によって生じたと捉えたこと自体が大きな勘違いなのですが、省庁主導で運営される臨教審やマスコミなどもこの安酒を食らって目を回したため、まんまと世の中に出回る結果となったものです。

◆名酒その２「極楽酩酊天国」

　企画販売元はフジテレビです。綺羅星のごとく数ある放送局のなかで売り上げ第一位となり、「楽しくなければテレビじゃない」と自らもはっきり言っているように、この酒を飲むと羞恥心というものを忘却します。朝から晩まで延々とくだらない番組を公共の電波を使って流し続けても恥ることがありません。現在どの民放をみても吉本興業のお笑いタレントが出ずっぱりで、自分たち阿呆が楽しむために作っているようなものばかりですが、その走りはフジテレビであり、他の局は人気（＝視聴率＝売り上げ）にあやかりこの酒を飲んで恥を忘れ似たような番組をつくりだしたのです。

　その番組の内容は、大声や奇声をあげて騒いでいる学生の集団を傍からみるように悪心が生じるものばかりで、国中の破廉恥を集めて団子にしたようなものです。こんな放送局を見て「無価値」と判断し自分の手中に収めようとしたのがかのホリエモン事件の一要因なのですが、このとき日枝会長が自社を「報道機関」と表現したときは仰天しました。日枝会長はあのようなくだらない番組を垂れ流すのが「報道機関」だと認識していたんですね。この会長あってこの会社あり。納得です。

　また、報道といえばかってＴＢＳが報道の雄と言われていましたが、最近は凋落の一途をたどっています。ニュースキャスターに万年経っても成長なく害のみ多い筑紫哲也を採用しつづけたり、あるいは駄目男の加藤紘一に心酔し鈴木宗男をかわいがり、他国の国民を拉致して悪びれない北朝鮮にやさしい野中広務なぞを今だに出演させているのを見ると失地回復はほど遠いと思われます。振り向けばテレビ朝日言われていましたが、いまや振り向けばテレビ東京となっています。東京ローカルのテレビ東京に追い越されるのは先のことかと思いますが、いつまでも酔っ払っているような状態では案外近いかもしれません。

　さて、この酒は電波という目に見えないものを媒介して多くの国民にも振舞われています。理性や羞恥心を一生放棄したいと思う方は存分に召し上がれ。

◆名酒その３「唯我独尊」

　企画販売元は朝日新聞社です。この酒を飲むと無性に他人を批判したくなり事実がどうあろうと見向きもせず（事実に関心がなくなり）、自分の能力は一切省みず自分の気に入らない人物や事物にただひたすら誹謗中傷をしたくなり、時にその誤りや「やらせ」を指摘されても知らん顔を決め込み、謝罪するという素直な気持ちを忘れ去ってしまいます。その効能は、朝日新聞社自らが証明しているように戦前戦後から現代までの長期間に渡り一貫した唯我独尊の姿勢を保てる如く素晴らしいものです。

　また一般人がこの酒を飲むと、自分が最も優れた人間であると勘違いし、己の立場や能力、普段の行動を棚に上げて一言二言三言、さらに言わなくてもいいこと、言ってはいけないことまで物申したくなり、時に行動に及びます。払える能力があるのに給食費や医療費、光熱水費を払わず、督促すると逆切れして時に暴力や暴言にまでおよび、一方では自分の子供のうそや我儘を真に受けて学校や教師に非常識なクレームをいい、さらに賭けゴルフや暴行しておきながら国会議員にまで成りおおせるものまで現れる次第となり、その効果たるや絶大なものがあります。いま世をにぎわしている守屋武昌・前防衛次官も随分とこの酒を食らったのでしょう。

　唯我独尊で天狗になれば、その慢心は頂上を知らずに上りつめ、一歩間違えば塀の中に落ちるというスリルも味わえます。常々自分が優秀な人間だと思っている方は是非一献。　

　◆名酒その４「白鷺」

　企画販売元は不明です。もしかしたら上と同じで朝日新聞社かもしれませんがめったなことは言うものではないので不明としておきます。この酒を飲むと倫理、道徳といった人間として最も備えなければならない基本的特質を忘れ、他人を騙しても自分の利を謀ろうとする我利我利亡者に変態（生物学的用語ではメタモルフォーゼといいますね）できます。

　金銭や財産といった物的詐欺から人の信頼を裏切るような心的な詐欺までその影響は広く、また地方の小役人から国会議員といった多くの公務員による様々な形の税金の詐取や私的流用、羊頭狗肉を地で行くような混入肉販売、消費期限切れ商品の再販売など、その詐欺行為は枚挙に暇がありません。宗教や占いの世界でもまた然りです。真摯な人間も多いのですが、すぐに前世や背後霊といったものを持ち出して目を晦まし、何かと言えば墓を作れと脅かす霊感商法、さらに洛書と易卦の配置が同じ原理でできていることを知ってか知らずか、方位を九星で判断しながら（これ自体があぶないのですが）、易をお遊びという思考回路が？？な占い師など、他人を食い物にしているものが多いのも事実です。詐欺を働く人間は、その人の本性が現れたものに過ぎませんが、この酒を飲むとより早く、より多くの人間を騙そうという気になれます。たんまりと私腹を肥やしたいと思う人には最適の酒です。

　以上、真っ当な人間であることをやめたい人のために紹介しました。ほかにもいろいろあると思いますので探してみてください。これは！というものがありましたらこの欄での紹介も考えたいと思います。是非ご連絡下さい。

（2007年11月4日）